圧縮機の断熱効率の定義
断熱効率(Isentropic Efficiency, Adiabatic Efficiency)とは、圧縮機が流体を圧縮する際に、理想的に(=等エントロピー的に)圧縮する場合と比べて、実際のサイクルで同じ圧力まで上昇させるのに、どれだけ大きな仕事を必要とするかの比率のことです。
断熱効率ηの定義は以下となっています。
(Wideal: 等エントロピー変化の場合に必要な仕事[J/kg],
Wreal: 実際にした仕事[J/kg],
H2s: 等エントロピー変化した場合の圧縮機出口エンタルピー[J/kg],
H2: 実際の圧縮機出口エンタルピー[J/kg],
H1: 圧縮機入口エンタルピー[J/kg])
ここで仕事は全て圧縮機が流体にする仕事としています。
ηはη<=1で、等エントロピー変化の場合に1になりますが、実際の機械では1より小さくなります。
仕事は出入口のエンタルピー差と対応しています。
圧縮機の仕事とエンタルピー変化との対応
圧縮機は流入出が連続して行われる開いた系において、低圧の流体を吸入し、その気体を圧縮し、高圧の流体を排出します。
この際に系のエネルギーの釣り合いを考えると、
理想気体の場合には以下の式が成り立ちます。
左辺が領域から出ていく熱量、右辺が領域に流入する熱量です。
Wについて解くと、
(W:圧縮機が単位質量あたりの流体に行う仕事[J/kg])
Wに質量流量[kg/s]を乗じると[J/s]=[W]が求められます。
Ttのような記載は全温です。簡単な説明を以下記事に記載しています。
閉じた系と異なるのは、領域に吸い込むときに外から行われる仕事p1/ρ1と吐き出す時に外にする仕事p2/ρ2が含まれている部分になります。
実在気体の場合であってもCvT→Uに置き換わり、Hの定義がH=U+p/ρなので、仕事WがW=H2-H1のように出入口のエンタルピーの差として整理出来ることは変わりません。
以下はp-v線図上で等エンタルピー変化と実際に損失がある変化を表したイメージです。
実際の変化では、等エントロピー変化に比べて余計に温度が上がってしまい大きなエネルギーが必要になります。断熱効率が低下する主な原因は流体の運動エネルギーが流体同士や流体と壁面間の摩擦によって熱に変わってしまうことです。
断熱効率はh-s線図上で説明される場合も多いので、断熱効率(Isentropic Efficiency)で調べると、より理解を助ける記事を見つけられるかと思います。
断熱効率が低いことのデメリット
断熱効率が低いことのデメリットの一つに冷凍機の効率低下があります。
以下は冷凍システムのサイクルを表したp-h線図のイメージです。
冷凍サイクルでは、冷却熱量ΔHcoolを圧縮機の仕事Wで割った値を、成績係数COP(Coefficient Of Performance)として以下のように定義します。
COPの意味合いは、与えた仕事に対して何倍の熱量が移動出来るかということで、大きいほど効率が良い冷凍機になります。
理想的に等エントロピー的に圧縮出来れば成績係数が
となるような場合でも、実際の成績係数は
のように断熱効率倍だけ理想のサイクルより小さい値になります。
例えばCOPideal=5で、断熱効率η=0.8なら、COPreal=4です。
圧縮機の基本性能として流量や圧力比等は重要な性能ですが、同時に断熱効率も全体の効率に関わる非常に重要なものとなっています。
間違いに気づかれた方はご指摘頂けるとありがたいです。